ノルマンディーの小さな宝石、トゥルヴィル。

写真:ゴトウヒロシ 文:猫沢エミ コーディネート:田中敦子

ノルマンディーの小さな宝石、トゥルヴィル。
文化人の愛した海辺の街で、大人の夢が花開く。

海をテーマにしたフランスのヴァカンスというと、どうしても南仏ばかりをイメージしてしまうのは、映画の影響からだろうか?かくいう私とて、数年前、トゥルヴィルを初めて訪れてみるまでは、北の海のヴァカンスなんてピンとこなかったのだ。ところが、一度来てみると、すっかりとりこになってしまった。実際、この地を愛した文化人、著名人は数知れない。1825年、画家のシャルル・モザンがトゥルヴィルの風景を描き、パリのサロンに展示したところ、モネをはじめとする名だたる画家たちだけでなく、プルースト、フロベールなどの作家たちもその美しさに惹かれ、創作のインスピレーションを求めてトゥルヴィルに滞在するようになる。トゥルヴィルを愛し、街の旗までをも描いている看板画家のレイモン・サヴィニャックが絵を寄贈したホテル・フロベールは、夏になると多くの作家たちが執筆のために長期滞在するという。海岸沿いに建てられたホテルの絶景の窓に向かい、夢のような“作家先生の缶づめ”の世界がそこにある。自分も物書きのはしくれであることを、案内してくれたホテルのオーナー・イザベルに告げると「あら!あなた来年の夏は、1ヶ月くらい逗留して執筆なさいな。きっといい小説が書けるわよ。」と、危うく予約リストに書き込まれそうになった。1ヶ月滞在できるかどうかは別として、いつかここで物語を書いてみたい…そんな大人な夢を見てしまう。近年では、フランスを代表する女流作家、マルグリット・デュラスが晩年を過したことでも有名だ。彼女は、連日のようにひとりで、または友人と連れ立ち、ブラッスリー‘ル・ソントラル’へ顔を出し、近海で獲れた新鮮な魚介を味わい、心豊かな時間を送った。多くの文化人がこの地を選んだ理由のひとつとして、パリから近場であることもあげられる。そして、コンパクトな街に海も、文化も、美食も、カジノなどの娯楽までもがバランスよく息づいていて、一度言葉を交わせばあっという間に仲間として迎え入れてくれる、北国の温かな人の気質も心地よい。晩年をこの地で過したいと考えているパリジャンがたくさんいることも、一度トゥルヴィルを訪れてしまえば何の疑問ももたずに納得できてしまう。パリの街中でみかけるそれよりも、ずいぶんと肥えた立派なかもめが、我がもの顔で青い空を旋回している。

 

Office de tourisme-Trouville
トゥルヴィル観光局

32 quai Fernand Moureaux 14360 Trouville-sur-mar
Tél :02.31.14.60.70
www.trouvillesurmer.org

トゥルヴィルは、パリ・St-Lazare(サン・ラザール)駅からSNCF(フランス国鉄)の電車で約2時間ほど。行き先駅は‘Trouville-Deauville/トゥルヴィル・ドーヴィル’(写真中上)。駅を出て、右へ少し歩きBelges橋を渡るとそこがトゥルヴィル。便によって直行の電車と、手前の街‘Lisieux/リズュー’で乗り換えの電車がある。BilletはSNCFのサイトでも予約可。www.voyages-sncf.com

‘Marie/メリー’(市役所)横のAm.de Maigret通り周辺と海岸沿いは、この地方独自のノルマンディー様式建造物が建ち並ぶ、お散歩スポット。お城?!と見紛うようなキッチュでかわいいアパルトマンも。この地にセカンドハウスを建てるのが流行した当時、お金持ちが競って豪奢な家を建てた結果、このような独特の街並が出来上がったのだとか。​

 

 

 

 


BONZOUR JAPON Nº 15 [トゥルヴィル、かもめとサヴィニャックに出会う海辺の街へ] より

*取材データは最新のものですが、ここで紹介される品物の値段、および各店舗の営業時間・定休日は急に変更されることがあります。また、文章は取材当時のものを使用していますことをあらかじめご了承ください。