パティスリー界の貴公子・SÉBASTIEN GAUDARD

コーディネート/田中敦子, 写真/Mika Inoué, 取材・文/猫沢エミ

SÉBASTIEN GAUDARD 
セバスチャン・ゴダール

22 rue des Martyrs 75009 Paris
Tél:01.71.18.24.70
Mérto: 12番線 N-Dame de Lorette
月曜定休 火〜金 / 10 :00〜14 :00, 16 :00〜20 :00 土 / 9 :00〜20 :00 日/ 9 :00〜14 :00
www.sebastiengaudard.com

 

フレンチグリーンのすっきりとした外観。中へ入ると清潔な水色と白の、なんともセンスのいい空間が広がる。店内に置かれたクラシックなケーキのショーケース。細部に渡るまで、甘さを押さえた大人の可愛さに満ちている。そんなセバスチャン・ゴダールがオープンしたのは、2011年11月23日のこと。取材当時は出来てからまだ3ヶ月足らずの新しいお店だったが、彼の名はフランスはおろか世界のパティスリー界に若かりし頃から響き渡っていたので、オープン前からすでに注目されていた。ピエール・エルメが退いた後のフォションを作り上げたのも彼ならば、ボン・マルシェのデリカバーをプロデュースし、一躍話題をさらったのも彼である。パティシエにしておくには惜しい美貌とカリスマ性で、フレンチパティスリー界の貴公子と異名をとるゴダール氏が、本当に作りたいケーキを食べてもらうため、満を持して自身の店をオープンするというのだから、注目されるのは当然のことだった。フランス東部、ナンシー=ロレーヌ県Pont-à-Mousson出身のセバスチャンは、優秀なパティシエだった父の背中を見て育った。「15年間、僕は本当にモダンで斬新なケーキを作ってきた。柚や抹茶なんかの日本のフレーバーもよく使っていたよ。でももう、それもお仕舞い。これからは、伝統フランス菓子を作るよ。でも、ただの伝統レシピじゃない。そのケーキが生まれた時代の、誕生起源のレシピで作るんだ。これはフランス伝統菓子の真髄だ。」そう語るゴダール氏の仕事中の横顔は、お客様第一のストイックな職人そのもの。取材中も、お客様が来るとすぐさま自ら丁寧な応対ぶり。「おそらく僕もそのうちのひとりだけど、お客さんはごくシンプルで子供の頃から慣れ親しんだお菓子のとびきりおいしいやつが一番好きなんだ。」それは言葉では表し難いのだけど、そうそうこれこれ!とおもわず叫んでしまうような、初めて食べるのに記憶の奥底にある懐かしい味わいのことを言うのだと思う。2014年には、チュイルリー公園すぐ目の前の、サントノレ通りにサロン・ドゥ・テを配した2号店がオープン。出来立てのケーキを香り高いお茶とともにぜひ味わって。

本当にお客さんが切れることなく訪れたある土曜の撮影日、近所の常連さんを中心に、老若男女がクラシカルなケーキを求めて集まっていた。

(写真左)
セバスチャン・ゴダール氏。「本当においしいお菓子は、いつもシンプルなもの。」

(写真下)まるでインテリア雑誌の表紙のような内観。「当初、インテリア・デザイナーを立てて内装工事を進めていたんだけどなんだかピンとこなくて、最終的には僕が自分でデザイン・プロデュースしたんだ。」とセバスチャン。そういえば、某情報誌に彼の自宅サロンが掲載されていたのを見たことがあるけれど、たしかに納得のハイセンスでした。
(写真上)店内のデコレーションも極めてシンプル・クラシック。子供の頃に誰もが食べた、伝統的なフランスの飴を地方の作り手から引いているのだとか。「知ってる?コクリコ(ひなげし)の香りのキャンディーだよ。」と言って、ひとつお味見させてくれた。
(写真右)撮影当時は、1月6日の公現祭(キリスト教の祭日)に1年の幸せを願って食べられるガレット・デ・ロワの季節だった。お菓子の横に、おや?よく見ると、見たこともないセンスのいいフェーヴが並んでいる。フランス東部、ナンシー=ロレーヌ県Pont-à-Mousson出身のセバスチャンが、地元の美術館に納められている、古い東洋趣味時代の陶器を模したオリジナルのフェーヴをプロデュースしたのだそう。【La fève 1個6.90€ /全種類 35€】

 

 

(写真上)
【Othello 4.40€】とにかく、セバスチャン・ゴダールのケーキはそっけないほどシンプル。以前、彼が作っていた斬新なものと比べてしまう方は、物足りないと感じてしまうかもしれないが、そこには小麦やバターを素直に感じられる素朴なおいしさが詰まっている。オテロは、ガナッシュドームの中にかるいメレンゲが閉じ込められていて、さくさくという香ばしい音を奏でる。

【Mussipontain 4.40€】尊敬する父君のオマージュとして作ったのが、このケーキ。土台のメレンゲと滑らかなクレームパティシエ。まわりのアーモンドと振りかけられた粉砂糖までもがきちんと計算されていて、ほっぺが落ちるおいしさ。何味、と一言では表せない淡い至福に満ちたケーキ。
【St-Honoré 4.80€】
これもまた、シンプルの極み。シュー生地を組み合わせたサントノレの、クレームシャンティイと飴がけの部分、シューの中のクレームパティシエそれぞれの甘さを微妙に変えて、口に入れた瞬間、全体がベストな甘さになるよう計算されている。素材の味優先、それを引き立たせる甘みは最低限でいいという、ゴダール氏のケーキの美学をここでも見ることができる。
【Puits d’amour 4.40€】
“愛の井戸”の意味を持つ、今やフランスでも絶滅しかけている感のある伝統フランスケーキ。井戸のようにまるいパイ生地の器に、あふれんばかりのクレームパティシエが顔をのぞかせる。そのクリームの表面をキャラメリゼしただけの、ごくごくシンプルなお菓子なだけに、素材の良さが試される。バター、牛乳、たまご、小麦粉、そのどれもが、きちんと感じられる上質な素朴さ。
【Tartelette au chocolat 4.40€】
小さなタルト、という意味のタルトレット。きゅっとしまった小降りのタルト生地に、なめらかなショコラガナッシュ。このガナッシュがですね、すごいんですよ。とにかく美味しい。それしか表現ができない、シンプルかつストレートな美味しさ。そしてなめらかな舌触りに思わずうっとり。

 


 

BONZOUR JAPON Nº 31 [今、一番気になるパリのパティスリー] より

*取材データは最新のものですが、ここで紹介される品物の値段、および各店舗の営業時間・定休日は急に変更されることがあります。また、文章は取材当時のものを使用していますことをあらかじめご了承ください。