PAIN DE SUCRE:シェフカップルが作る綺麗で美味しいケーキ

コーディネート/田中敦子, 写真/Mika Inoué, 取材・文/猫沢エミ

PAIN DE SUCRE
パン・ドゥ・スュクル

14 rue Rambuteau 75003 Paris
Tél:01.45.74.68.92
Métro:11番線 Rambuteau
火・水曜定休 木〜月10 :00~20 :00
http://www.patisseriepaindesucre.com

 

叩き上げのシェフカップルが作る、信頼できる飽きのこない美味しさ

この店の名前は、もうとっくにプロのパティシエ友人たちから聞かされていたにもかかわらず、なぜか足を運ぶことがなかったのは、おそらくサイトで見るケーキやシェフのイメージになんとなく一貫性を感じなかったからかもしれない。ということを、取材時にストレートに話すと、「そうなの!だから今、新しいサイトを作っているところなのよ。」と女性パティシエのナタリー・ロベールさんは、思わずママン!と呼びたくなるような親しみのある笑顔で答えた。彼女がパートナーのディディエ・マトレさんと共に、パン・ドゥ・スュクルを、ポンピドゥーセンターからほど近い好立地に出したのは2004年のこと。ほんの3ヶ月前にオープンしたパティスリー専門の店と、そのすぐ左横には、オープンから7年間お菓子も惣菜も一緒くただった最初の店舗を、塩系のパンや高級総菜専門に絞ったお店が並んでいる。男性シェフのディディエさんは、初物ワインで有名なボージョレ出身。子供の頃からお菓子が大好きで、13歳のときにはもうすでに村のショコラティエで、トリュフの真ん中にいれるガナッシュ丸めを手伝っていたというから天性のお菓子好きだ。地元の料理学校に入学卒業後、師匠と呼べる数々のシェフパティシエとの仕事通じて、現在につながるケーキ作りの基礎をマスター。シェフのパリ転勤をきっかけにパリへ上京し、しばらくして自分の店を持つに至った。かたやパートナーのナタリーさんは、ディディエさんと同じく地元の料理学校Lycée hôtelier de la Rochelleに入学。リヨンのLa Mère Brazirでシェフを勤めた後、Dominique Bouchetなどの二つ星レストランのシェフと仕事と共にし、シェフたちの厚い信頼を得る。華々しい経歴をもつスターシェフとは違い、ごく地道なステップアップで今やパリを代表する確実な基盤を作ったふたり。叩き上げの現場経験と、きらりと光る鋭いセンスが見事に合わさって、呼吸の合った仲のいいふたりの空気感は、きちんと作るケーキに現れている。

とにかく思わず微笑んでしまうほど、仲睦まじいふたり。撮影前に「ちょっと、髪が乱れてる。」といって、ディディエさんのおでこをなでつけるナタリーさん。「学校を出てから旅に出るチャンスに恵まれたのよ。エチオピア、ガーナ、スイス、アイルランド。そのとき感じたスパイスの香りにインスピレーションをもらってる。」なるほど!どことなくマグレブ圏の香りがしたので、チュニジア生まれなのかな?なんて勝手に想像してたけど、これで納得。


お客様がいない間を見つけては、丁寧に商品を陳列しなおすなど細かい心くばりが女性らしいナタリーさん。

(写真下)手作りのコンフィズリーも見逃せない。こちらは、ギモーヴの新フレーバー、シャンパン味。ふんわりと弾力のあるマシュマロに、さわやかな大人の味がプラス。-Champagne Guimauve Maison 1個 1.40€) (写真上)ケーキは繊細な味だけれど、サブレなどの焼き菓子は、ふたりの暖かいキャラクター通りの素朴でなつかしい美味しさ。-ハートのサブレ 2.5€

 

   【Jardin d’hiver 6€】緑色の鮮やかな色彩がひときわ目を引くこのお菓子。ふたりが口を揃える「化学的な着色や素材は絶対に使わない。斬新なケーキにも、その基礎に伝統的なルセットがなければ、美味しいものなど作れない。」という哲学が結集したケーキ。表面をピスタチオの粉末で覆ったドームの中には、ローズマリーの香りのクリーム。繊細な上部を支える土台のガナッシュはミント風味。絶妙な香りのハーモニー。
  【Ephémère 5.40€】

エフェメール=かげろうという名前のつけられた、白いドーム型の上部はココナツのクリーム。その中にとろりと煮込まれたカシスのコンフィチュールが。土台のやわらかなビスキュイはココナツとノワゼットがちりばめられている。名前の通り、軽くてすぐに消えてしまような、はかない繊細さのケーキ。

  【Baobab 6€】バオバブと名付けられたクラシックなババ・オ・ラム。ややもすると、一般的なババはラムが強すぎてお酒の味しかしないため、フランス人でも実は苦手な人が多いこのお菓子。パン・デュ・スュクルのババは、そんな人にこそぜひ食べてもらいたい。スポイトに仕込まれたラムは外して、一口目はそのままでどうぞ。ドームの内側を満たすマダガスカル産のバニラクリームがとろりおいしくて、思わず昇天!
  【Nadette 5.40€】

この日は、3種類の食後のプチデザートがあったが、こちらはその中のひとつ。すみれのワンポイントが愛らしい、ナデット。白ラム酒がほんのり聞いたパッションフルーツとマンゴーゼリーの下には、日本人にはちょっと不思議な感じのする、お米を使ったフランス伝統デザートの“リ・オ・レ”。リ・オ・レは正直苦手だったのだけどパン・ドゥ・スュクルのは美味しく頂けました。

  【Caprice 5.40€】

はい、また編集長は個人的な好みベスト3ケーキのひとつを発見しました!シュー生地の中には、オレンジの花の香りを引き出して甘さを極力控えたムースクリームが。とても薄いシュー生地の香ばしさと相まって、一瞬モロッコ、チュニジアあたりに脳が旅してしまいました。衝撃のさわやかエクレア、これは新しい!


BONZOUR JAPON Nº 31 [今、一番気になるパリのパティスリー] より

*取材データは最新のものですが、ここで紹介される品物の値段、および各店舗の営業時間・定休日は急に変更されることがあります。また、文章は取材当時のものを使用していますことをあらかじめご了承ください。